東京地方裁判所 昭和36年(ワ)7939号 判決
○当事者
原告
太田勝男
右訴訟代理人弁護士
本渡乾夫
右訴訟復代理人弁護士
桜井公望
右訴訟代理人弁護士
重田九十九
被告
杉本年
右訴訟代理人弁護士
柴田茲行
右訴訟復代理人弁護士
根本孔衛
竹沢哲夫
右訴訟代理人弁護士
莇田立明
被告
朽木富三郎
右訴訟代理人弁護士
佐藤義雄
○主 文
一 被告らは、別紙第一目録記載のパーマネント用毛捲カラー(ただし、金属螺旋筒の外面を鯨髯を材料として粗目に、かつ、無継目の丸編により斜地に編織した撥水性の網布で被包し、その網布の両端を蕊筒の内面に折り込んだものを除く。)を製造、販売してはならない。
二 被告らは、各自、原告に対し、金六十七万六千九百六十七円五十銭及びこれに対する昭和三十六年十月二十七日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求は、棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
○事 実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告訴訟代理人は、「一 被告らは、別紙第一目録記載のパーマネント用毛捲カラーを製造、販売してはならない。二 被告らは、各自、原告に対し、金七十五万円及びこれに対する昭和三十六年十月二十七日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。三 被告朽木富三郎は、原告に対し、金七十五万円及びこれに対する昭和三十八年八月三日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。四 訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決及び右第二、第三項につき仮執行の宣言を求めた。
二 被告らの各訴訟代理人は、「原告の請求は、いずれも棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 当事者の主張
(請求の原因等)
原告訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。
一 原告の実用新案権
原告は、次の実用新案権の権利者である。
名 称 パーマネント用毛捲カラー
登録出願 昭和二十九年五月十四日
出願公告 昭和三十年八月十二日
登 録 昭和三十一年二月三日
登録番号 第四三九、七〇七号
二 本件実用新案権の登録請求の範囲
本件実用新案権の登録願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載は、別紙第二目録該当欄記載のとおりである。
三 被告らの侵害行為
被告らは、昭和三十五年六月一日から共同して、本件登録実用新案の技術的範囲に属する別紙第一目録記載のパーマネント用毛捲カラー(以下「本件毛捲カラー」という。)を製造、販売し、また、被告朽木富三郎は、みずから、同じ頃より、前同様の本件毛捲カラーを製造、販売し、それぞれ、本件実用新案権を侵害しているから、その侵害の差止めを求める。
四 被告両名に対する損害賠償請求
被告らは、本件実用新案権を侵害するものであることを知り、又は知りえたにかかわらず、過失によりこれを知らずして、昭和三十五年六月から昭和三十六年九月まで、共同して一カ月十二万本ずつの本件毛捲カラーを製造し、これを一本金十円で販売し、これがため原告は多大の損害を蒙つた。しかして、本件登録実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する金額は、別表(一)記載のとおりであるから、毎月の相当実施料額は、金六万円であり、したがつて、原告は被告らの共同不法行為により、右期間、毎月金六万円合計金九十六万円の損害を受けた。
よつて、原告は、被告らに対し、連帯して、右金員のうち金七十五万円及びこれに対する不法行為の後である昭和三十六年十月二十七日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
五 被告朽木富三郎に対する損害賠償請求
被告朽木富三郎は、本件実用新案権を侵害するものであることを知り、又は、知りえたにかかわらず、過失によりこれを知らずして、昭和三十五年六月から同年十二月まで、一カ月十二万本ずつ、昭和三十六年一月から同年十月まで、各月次のとおり本件毛捲カラーを製造し、これを一本金十円で販売し、これがため原告は多大の損害を蒙つた。
昭和三十六年一月 九〇、〇〇〇本
同 年 二月 一一〇、〇〇〇本
同 年 三月 五八、四三〇本
同 年 四月 八三、五五七本
同 年 五月 八九、七三一本
同 年 六月 九二、三〇八本
同 年 七月 四七、七四九本
同 年 八月 一二〇、五〇七本
同 年 九月 一六六、二〇六本
同 年 十月 五八、一三一本
しかして、本件登録実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する金額は、別表(一)記載のとおりであるから毎月の実施料相当額は、別表(二)記載のとおりであり、したがつて、原告は、被告朽木富三郎の不法行為により毎月別表(二)記載の金額、合計金九十三万二百三十三円の損害を受けた。
よつて、原告は、被告朽木富三郎に対し右金員のうち金七十五万円及びこれに対する不法行為の後である昭和三十八年八月三日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
六 被告杉本年の抗弁に対する答弁
被告杉本年の先使用による法定実施権を有する旨の抗弁事実は、否認する。
七 被告朽木富三郎の管轄違いの主張に対する答弁
被告朽木富三郎に対する本件訴は、同被告に対し、本件毛捲カラーの製造、販売の差止めを求めるとともに、不法行為に基づく損害金の支払いを求めるものであり、その義務履行地は、原告の肩書住所であるから、その裁判所である東京地方裁判所は、本件訴につき管轄権を有する。
(被告杉本年の答弁等)
被告杉本年の訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。
一 請求原因第一、第二項の各事実は、いずれも認めるが、その余の請求原因事実は否認する。
二 仮に、被告杉本年の製造、販売した毛捲カラーが、本件登録実用新案の技術的範囲に属するとしても、杉本年は、本件実用新案登録出願の日である昭和二十九年五月十四日当時、善意で、本件登録実用新案の技術的範囲に属する本件毛捲カラーを、業として製造、販売していたから、被告杉本年は、本件実用新案権に対し、右事業の目的の範囲内において、先使用による通常実施権を有するものである。
(被告朽木富三郎の答弁等)
被告朽木富三郎の訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。
一 被告朽木富三郎は、本件毛捲カラーを製造、販売したことはないが、仮にそうでないとしても、これを東京都内において製造、販売したことはなく、しかも、同被告の住所は、京都市であるから、東京地方裁判所は、本件訴につき管轄権を有せず、よつて、本件訴を管轄裁判所である京都地方裁判所に移送することを求める。
二 請求原因第一、第二項の各事実は、いずれも知らない。その余の請求原因事実は、否認する。
第三 証拠関係≪省略≫
○理 由
(被告朽木富三郎の管轄違の主張について。)
一 被告朽木富三郎は、東京地方裁判所は本件訴につき管轄権を有しない旨主張するが、本件訴は、同被告に対し、本件実用新案権に対する侵害の差止めを求めるとともに、不法行為を理由に原告の受けた損害金の支払いを求めるものであることは、原告の主張自体に徴し明らかであり、右請求中損害金の支払いを求める部分については、その義務履行地は原告の肩書住所である東京都にあるから、その裁判所である東京地方裁判所は、被告朽木富三郎に対する訴訟の全部につき管轄権を有するものというべく、したがつて、同被告の管轄違の抗弁は理由がない。
(被告らの本件毛捲カラーの製造、販売について。)
二 (証拠―省略)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、その主張する本件実用新案権の権利者であること、本件実用新案権の登録願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載が別紙第二目録該当欄記載のとおりであること(以上事実は、原告と被告杉本との間においては争いがない。)、被告らは、共同して、昭和三十五年九月頃から被告らが後記仮処分決定の執行を受けた昭和三十六年十月中旬頃まで別紙第一目録記載の毛捲カラー(ただし、金属螺旋筒の外面を鯨髯を材料として粗目に、かつ、無継目の丸編により斜地に繊織した撥水性の網布で被包し、そ網布の両端を蕊筒の内面に折り込んだものを除く。)を業として、製造又は販売していたこと、右毛捲カラーが本件登録実用新案の必須要件をすべて具備し、本件登記実用新案の技術的範囲に属すること、及び、原告は、昭和三十六年十月、東京地方裁判所に対し、被告らを債務者として本件毛捲カラーの製造及び販売を禁止する旨の仮処分の申請をし(同庁昭和三六年(ヨ)第二、三七〇号事件)、同裁判所は、同月十六日、これを容認する趣旨の仮処分決定をしたことを認めうべく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(被告杉本年の先使用による法定実施権の存否について。)
三 被告杉本年は、本件実用新案権に対し、先使用による通常実施権を有する旨主張するが、本件実用新案の登録出願の日である昭和二十九年五月十四日当時、その技術的範囲に属する毛捲カラーを製造、販売していた旨の証人(省略)の証言及び前掲被告杉本年の本人尋問の結果はにわかに措信し難く、他に被告杉本年の右主張事実を認めるに足る証拠はない。もつとも、被告杉本年の製品であることにつき当事者間に争いのない検丙第一、第二号証、(証拠―省略)によれば、被告杉本年は、本件実用新案登録出願当時、金属螺旋筒を蕊筒とし、その外面を継ぎ目のある金網又は右金網に代えて普通の天然繊維で編織した網布で被包した毛捲カラーを製造、販売していたことを認めえないではないが、右毛捲カラーの製造販売が本件登録実用新案にかかる考案の実施と認むべき資料はないから、右毛捲カラーの製造販売の事実から、被告杉本の前記主張を肯認すべくもないことはいうまでもない。
(差止請求について。)
四 前認定事実によれば、被告らは、本件実用新案権を侵害し、かつ、侵害する虞れがあるものというべきであるから、金属螺旋筒の外面を鯨髯の網布で被包したのを除く第一目録記載の毛捲カラーの製造、販売の差止めを求める原告の請求は、理由があるものということができるが、本件毛捲カラーのうち、金属螺旋筒の外面を鯨髯の網布で被包し、その網布の両端を蕊筒の内面に折り込んだものについては、被告らがこれを製造、販売した事実はもとより、これを製造、販売しようとする虞れのある事実を認めるに足る証拠はないから、右毛捲カラーの製造、販売の差止めを求める請求は、理由がないものといわざるをえない。
(被告両名に対する損害賠償請求について。)
五 被告らが共同して本件毛捲カラー(前記鯨髯の網布で被包したものを除く。)を製造、販売したことにより、本件実用新案権を侵害したものであることは、前認定のとおりであるから、右侵害行為につき、被告らに過失があつたものと推定すべきところ、他に右推定を覆すに足る証拠はない。
しかして、(証拠―省略)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告杉本年は、加藤馨、嶺尾信夫、山本某、小谷某及び昭和発条株式会社に注文して、昭和三十五年九月から昭和三十六年九月までの間、本件毛捲カラーの金属螺旋部分を昭和三十五年九月三万四千四百本、同年十月四万八千八百本、同年十一月七万八千三十二本、同年十二月八万四千六百四十本、昭和三十六年一月四十一万本、同年二月四十一万本、同年三月三十六万八千四百三十本、同年四月四十八万三千五百五十七本、同年五月三十九万九千七百三十一本、同年六月四十万一千二百八十八本、同年七月五万八千七百四十九本、同年八月十四万八十七本、同年九月十五万一千六百二十六本被告朽木富三郎方に納入させたこと、被告らにおいて、その頃、これに加工を施して本件毛捲カラーを製造し、右製品を一本金十円で他に販売したこと及びこれがため、原告は多大の損害を蒙つことを認めうべく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
右事実によれば、被告らが共同して製造、販売した本件毛捲カラーの各月の数量及び販売額は、次のとおりである。すなわち、
年月
製造本数
販売額
昭和三十五年
九月
三四、四〇〇本
三四四、〇〇〇円
同年
十月
四八、八〇〇本
四八八、〇〇〇円
同年
十一月
七八、〇三二本
七八〇、三二〇円
同年
十二月
八四、六四〇本
八四六、四〇〇円
昭和三十六年
一月
四一〇、〇〇〇本
四、一〇〇、〇〇〇円
同年
二月
四一〇、〇〇〇本
四、一〇〇、〇〇〇円
同年
三月
三六八、四二〇本
三、六八四、三〇〇円
同年
四月
四八三、五五七本
四、八三五、五七〇円
同年
五月
三九九、七三一本
三、九九七、三一〇円
同年
六月
四〇一、二八八本
四、〇一二、八八〇円
同年
七月
五八、七四九本
五八七、四九〇円
同年
八月
一四〇、〇八七本
一、四〇〇、八七〇円
同年
九月
一五一、六二六本
一、五一六、二六〇円
原告は、被告らの本件毛捲カラーの製造本数は、昭和三十五年六月から昭和三十六年九月まで、毎月十二万本である旨主張するが、右認定の範囲を越えて原告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。
しかして、(証拠―省略)によれば、原告は、本件実用新案権につき、株式会社日東化学研究所に対し、実施料額を別表(一)記載のとおりとする実施権許諾契約を締結していること、及び右実施料額が業界の実情に照らし、本件実用新案権に対する相当実施料額であることが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はにい。
したがつて、被告らの本件毛捲カラーの製造、販売による各月の相当実施料額は、次のとおりということができる。すすなわち、
年月
実施料率
相当実施料額
昭和三十五年
九月
七%
二四、〇八〇円
同年
十月
七%
三四、一六〇円
同年
十一月
六%
四六、八一九円
二〇銭
同年
十二月
六%
五〇、七八四円
昭和三十六年
一月
三%
一二三、〇〇〇円
同年
二月
三%
一二三、〇〇〇円
同年
三月
三%
一一〇、五二九円
同年
四月
三%
一四五、〇六七円
一〇銭
同年
五月
三%
一一九、九一九円
三〇銭
同年
六月
三%
一二〇、三八六円
四〇銭
同年
七月
七%
四一、一二四円
三〇銭
同年
八月
五%
七〇、〇四三円
五〇銭
同年
九月
四%
六〇、六五〇円
四〇銭
合計
一、〇六九、五六三円
二〇銭
しかして、右相当実施料額は、実件実用新案権の権利者である原告の受けた損害の額ということができるところ、これを覆すに足る証拠はない。
しかも、右損害額は、被告らの共同不法行為により生じたものであることは前説示のとおりであるから、被告らは、連帯して、右損害金の賠償義務があるものといわなければならない。
したがつて、被告らに対し、連帯して損害金の支払いを求める原告の請求中、前記認定の月額金六万円を超えるものについては、その請求の限度において、その余については前記認定の限度において、いずれも理由があるものということができるから、右合計金六十七万六千九百六十七円五十銭及びこれに対する不法行為の後である昭和三十六年十月二十七日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求は正当として認容すべきも、その余は理由がないものといわなければならない。
(被告朽木富三郎に対する損害賠償請求について)
六 原告は、被告朽木富三郎は、被告杉本年とは別個に、昭和三十五年六月から昭和三十六年十月までの間に、別表(二)記載の本数の本件毛捲カラーを製造、販売した旨主張するが、本件全証拠によるも、右事実を認めることはできないから、進んでその余の点について判断するまでもなく、被告朽木富三郎に対する右損害賠償の請求は、理由がないものといわなければならない。
(むすび)
七 以上説示のとおりであるから、原告の各請求は、主文第一、第二項掲記の限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条本文、第九十三条第一項本文を、仮執行の宣言について同法第百九十六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 三宅正雄 裁判官 武居二郎 裁判官 白川芳澄)
第一目録
金属螺旋筒を蕊筒とし、その外面を鯨髯又は合成樹脂繊維を材料として粗目に、かつ、無継目の丸編により斜地に繊織した撥水性の網布で被包し、その網布の両端を蕊筒の内面に折り込んでなるパーマネント用毛捲カラー。
第二目録
特許庁実用新案公報(抄)
パーマネント用毛捲カラー図面の略解(省略)
登録請求の範囲
図面に示すように金属螺旋筒を蕊筒2とし其外面を鯨髯又は合成樹脂繊維を材料として粗目に且つ無継目の丸編によつて斜地に編織した撥水性の網布3で被包し述該網布2の両端を蕊筒の内面に折込んで成るパーマネント用毛捲カラーの構造。
別表(一) (二)(省略)